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地熱発電の舞台裏:経験者が語る地熱発電のメリット・デメリットの真実

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世間一般的には、SDGや石油高の影響などによって再度注目を集めるようになった地熱発電。

地熱事業に従事して感じたニュースでは語られない地熱発電のメリットデメリットの真実についてまとめました。

※一部、個人的な見解が入っている部分も十分にあります。十分ご留意の上、お読みください。

地熱発電のメリットの真実

メリット①:地熱資源が世界3位

日本は、世界でも有数の地熱地帯です。事実、世界3位の地熱資源国と言われています。(参照:JOGMEC 世界の地熱発電

しかし、設備容量となると世界9位であり、まだまだ地熱資源が十分使えていないのが実情です。

これらの要因については、複数考えられますが、1つには地質構造が複雑であることが挙げられます。

現在までに地熱発電所名所とされる地域のほとんどが正断層系、すなわち伸張場に属します。(アイスランド、トルコ、ケニアetc)
逆に、日本や台湾のような圧縮場(逆断層、横ずれ断層)では開発が難しい傾向にあります。

また、日本の地熱地帯が山間部にあることでの建設コスト、調査コストの増加、国立公園の規制、温泉法なども要因として挙げられます。

詳しくは、以下に掲載しています。

そのため、埋蔵量は世界3位ですが、使用可能量としたときに日本はもっと下位に属する可能性は十分あると思います。

今後、クローズドループや超臨界などの技術の発展、石油の高騰やインフレ等の外部要因よる地熱発電の相対的な利益率向上があれば、もっと発展していくことを期待しています。

メリット②:持続可能な国産エネルギーである

地熱資源は、純国産のエネルギーであることは事実です。石油の高騰などの影響は受けず、安いコストで使うことができます。そのため、一度事業性を確保できると非常に利益が安定する傾向があります。ただし、本当に持続可能であるかは疑問が生じます。

疑問が生じる要因としては、地熱貯留層の減衰、地熱井戸の減衰とこれらを支える技術者の減少が挙げられます。

一般的には、地球内部の熱を使っており、そのエネルギーが莫大であるため持続可能と言われています。ただし、実際に地熱エネルギーを取り出している地熱貯留層は、減衰します。そのため、この地熱貯留層が減衰しないように供給される熱量と使用される熱量のバランスを見て調整しています。

地熱井によっては、減衰が激しく掘り直すこともあります。世界最大のカイザーズでも一時熱を取り出しすぎて、減衰した経緯があり、水を注入する人工涵養をして、復活させた経緯があるそうです。

また、減衰以外にも地熱井のトラブルもあります。最も多いトラブルがスケールです。生産井は炭酸カルシウムスケールによって、狭窄していくことが多く、数年、また数か月おきに”浚渫”と言われる掃除をすることや薬剤を注入して、スケールの付着しにくくするような処置が取られています。また、タービンや還元井では、シリカスケールも大きな問題になります。

上記のように、地熱エネルギーは持続可能かもしれないが、地熱貯留層、地熱井の維持管理が欠かせないエネルギーです。これらの技術を持った技術者減少しており、彼らがいなくなった場合、果たして持続可能と言えるかどうかは怪しいでしょう

メリット③:蒸気・熱水が再利用できる

アイスランドをはじめ、地熱を使ったセントラルヒーティングシステムや土湯発電所でのえびの養殖、岐阜県高山市の地熱発電所からの熱水を温泉へ利用するなど、再利用できることは非常にメリットと言えます。

ただし、実際には再利用するため設備を整えるなど、初期コストがかなりかかるのが現実です。
セントラルヒーティングで言えば、配管設備を電気やガスと言ったインフラと同様に整える必要があります。現在であれば、暖房費、燃料費が低いため、セントラルヒーティングシステムの利益回収にはかなり時間がかかることが想定されます。
また、地熱地域はほとんどが地方となるため、利用者も多くないことを考えるとさらに費用対効果が弱くなってくると思われます。

利用者サイドからは、初期費用をもってもらってることがあるため、メリットばかりが目がいきますが、事業者や投資家によっては現状、メリットが見出しにくいのが現状です。

メリット③:24時間稼働できる、天候に左右されない

太陽光や風力などと比べて、天候の影響をあまり受けず、24時間稼働できるのは大きなメリットです。

これは、特段反対意見はありません。

強いて言えば、天候の影響は厳密に言えば、受ける点かと思います。冷却塔が外気の影響をどうしても受けるので、夏場はやや発電効率が低下しますが、事業計画段階で盛り込めるので、大きな問題になりにくいです。

メリット④:CO2を排出しない

温室効果ガスであるCO2は、確かにほとんど排出されません。
しかし、近年流行っている小型バイナリー地熱発電の一部では、フロン系の冷媒が使われています。これは、CO2よりは非常に高い温室効果があります。

仮に漏らした場合には、CO2とは比べ物にならない温室効果をもたらします。CO2削減と言っていながら、温暖化加速ビジネスなってしまうので、冷媒漏れを起こさないように最大限気を付けなければなりません。

バイナリー発電は、全てがフロン系冷媒を使っているわけではなく、ペンタンなどの炭化水素系冷媒も多く使われます。これらは、温室効果はありませんが、引火性があるため労働基準法や消防法への対応が必要となります。

地熱発電のデメリットの真実

デメリット①:事業性が厳しい

採算が安定せず、リスクが高い事実事業であることは問題として挙げられます。
主なリスクとして、以下の2つが挙げられます。

  • 掘削リスク、資源リスク
  • 社会的リスク(地域住民の反対)

掘削は、費用は数億~数十億かかります。しかし、十分調査しても掘ってみるまでは資源が得られるかわかりません。事実、2~3本に1本当たればいいほうです。さらに、掘り当てたとしては、それが永続的に噴気するわけではなく、減衰やメンテナンスに手間がかかることもあります。

また、温泉文化が根強い日本では地域からの反対というのも避けられません。場合によっては、調査までして頓挫するケースもあります。

上記のようにたださえリスクが高い上にコストがかかるのが、地熱発電の難しいところです。

以下の資料の通り、多くの地熱発電のコストはFIP買取価格40円/kwhを超えています。すなわち、赤字です。

出典:地熱発電について 2020年12月資源エネルギー庁

成功している事例の多くは、リスクが高い初期段階で巨額の資金を投下している特徴があります。しかし、リスクが高い段階で巨額の投資ができる企業など日本に数社もないと考えられます。

仮に利益率を確保できていても、ベンダーに無理させている事例も多くありますので、健全な形で機能する状況を事業者としては作りたいところです。

また、発電効率が10~20%と他の電源と低い特徴がさらに事業性を悪化させます。ちなみに、他電源の発電効率は、火力の約50%、原子力約35%、風力約40%です。

近年、これらリスクををあまり理解せずに、太陽光発電が儲かった事業者がノリで始めてしまう事例が後を立ちません。

別府など、FITを皮切りに大量の小型地熱発電所が建設されました。ただし、下図のエネルギー庁の資料によれば、平均稼働率は60%前後。特に、低出力帯の稼働率が著しく低いことがわかります。(おそらく、だいたいがスクラップとして、眠っていることでしょう)

出典:地熱発電について 2020年12月資源エネルギー庁

地熱技術が一部の企業に集中してしまっているため、大企業だけができる事業となってしまっているのが現状かと思います。

ただし、SDGsの高まりもあり、石油会社を始めてとする様々な事業者の参入やESG投資などによる資金流入もあるので、今後の業界全体としてレベルアップが期待されます。

デメリット②:人材不足

1990年後半~2010年の間は、地熱業界では”冬の時代”と言われています。

オイルショックなどがあった1970年代には、石油に依存しない資源として注目され、国からの支援もあり、注目度が高まっていました。しかし、バブル崩壊後からエネルギー政策の転換やオイル価格の安定、原子力の推進等により、地熱発電は下火となります。この間、投資等も行われ来なかったことから、必然的に業界が衰退し、人材が流出していました。

近年のSDGsブームと福島第一原発の事故により再度注目されていますが、これまで下火だったことから、地熱技術者の高齢化や技術者不足が顕在化してきています。事実、地熱開発のボトルネックとして、掘削業者や調査会社が見つからないことは多々あります。

近年、業務スーパーの沼田社長が地熱の技術者の学校を設立するなどしている状況です。

記事:就職率100% 地熱発電の専門学校 北海道で全国初、掘削技術学ぶ

それほどまでに人材不足が深刻です。

まとめ

近年、インフレや中東情勢、為替によって、オイルショック等が起きれば、さらに地熱発電は注目されるでしょう。

また、ビルゲイツも積極的に地熱に投資を行っていることで有名です。
ビル・ゲイツ氏ら出資会社、熊本県で地熱発電を稼働

Googleとビルゲイツに認められた地熱発電「Fervo Energy」とは :Googleのカーボンフリー戦略 脱炭素社会実現に向けて

今後、これらのリスクを乗り越えるような技術革新に期待したいと思います。

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