温泉

日本における多種多様な温泉が形成されるメカニズム

温泉には、様々な種類があります。ここでは、そんな様々な温泉の泉質についての成因について、ちょっと専門的に解説します。
各温泉の定義については、『鉱泉分析法指針』に沿って記載しています。

また、各成分の効能などについては、日本温泉協会のHPにわかりやすく記載されています。

温泉の泉質による分類

温泉 泉質 メカニズム
成因

図1.温泉の分類(鉱泉分析法指針 参照)

まず、温泉は大きく分けて、『塩類泉』『単純温泉』に分類されます。

塩類泉は、『溶存物質 (ガス性のものを除く)が1000 mg/kg以上の温泉』と定義されます。
その中で主要な陰イオン成分によって『塩化物泉』、『炭酸水素塩泉』、『硫酸塩泉』に分類されます。ここでは、主要な陰イオン成分は、ミリバル(mval)値が大きいものを言います。

単純温泉は、『溶存物質(ガス性のものを除く)が1000 mg/kgに満たないもので,泉温が25 ℃以上の温泉』と定義されます。また,現地(湧出地)でのpH測定値が8.5以上の単純温泉をアルカリ性単純温泉と言います。

ただし、以下の表に掲げる特殊成分のうちいずれかが限界値を超えている場合は、図1のように細分化されます。

※上記の内容は、鉱泉分析法指針を引用しております。

以下では、泉質ごとの成因について解説します。
塩化物泉
炭酸水素塩泉・二酸化炭素泉
硫酸塩泉・硫黄泉
含鉄泉
酸性泉
含ヨウ素泉
放射能泉

泉質ごとの形成メカニズム

塩化物泉

指宿温泉 砂風呂

Pic. 指宿温泉 砂風呂
(海岸から温泉が湧出している)

定義

塩化物泉
『溶存物質 (ガス性のものを除く)が1000 mg/kg以上であり、陰イオンの主成分が塩化物イオン(Cl)である温泉』

成因

塩化物イオンが主成分である温泉です。塩化物イオンの由来は、主にマグマ水海水になります。
マグマが固結するときに水を放出します。この水は、塩化物イオンを大量に含む水になります。そのため、マグマ水の影響を強く受けている温泉は塩化物泉となります。
また、沿岸に近い地域に多い泉質です(指宿など)。温泉の水の起源に海水が入り込むためです。稀に化石海水と言われる昔の海水を起源とする塩化物泉もあります(松之山温泉等)。

主な温泉

・指宿温泉/鹿児島
・熱海温泉/静岡
・白浜温泉/和歌山
・小浜温泉/長崎
・松之山温泉/新潟
・有馬温泉/兵庫

炭酸水素塩泉・二酸化炭素泉

定義

炭酸水素塩泉
『溶存物質 (ガス性のものを除く)が1000 mg/kg以上であり、陰イオンの主成分が炭酸水素イオン(HCO3)である温泉』

二酸化炭素泉
『溶存物質 (ガス性のものを除く)が1000 mg/kg未満で、二酸化炭素1000 mg/kg以上を含む温泉』

成因

いずれも炭酸が溶け込むことで生成されます。

その炭酸の供給源としては、火山ガス、石灰岩などの炭酸塩岩、堆積岩中の有機物など多岐に渡ります。
炭酸水素塩泉・二酸化炭素泉の違いは、pHの違いに起因します。炭酸は弱酸のため、pHが低い場合は炭酸が溶けません。逆に、アルカリ性の場合(pHが高い場合)は炭酸が良く溶けます。そのため、炭酸水素塩泉はアルカリ性、二酸化炭素泉は酸性となることが多いです。
ちなみに二酸化炭素泉は、温泉が十分に酸化されても、なお炭酸が供給されている状態とも言えますので、大量の炭酸が供給されていると言えます。

火山ガス由来の炭酸水素泉や二酸化炭素泉は、火山からやや離れたところに形成されます。炭酸は、温度が下がると溶解度が高くなる傾向があります。そのため、火山に近い高温な付近では溶け込みにくく、温度が下がった火山から少し離れたところで形成されます。
また、火山付近では硫化水素が優勢のことがあり、pHが低く炭酸が溶け込みにくい条件であるとも言えます。

上記以外にも炭酸塩岩(主に石灰岩)と接触して、炭酸水素塩泉を形成する場合があります。石灰岩(CaCO3)の場合、塩基性塩のため酸性水や炭酸が吹き込まれるとHCO3を溶脱して、炭酸水素塩泉を形成します。石灰岩は、塩基性岩のため温泉が酸性である必要がある二酸化炭素泉は形成されにくいと考えられます。

主な温泉

日本のような火山がある地域では天然の二酸化炭素泉は、比較的形成されにくい傾向があります

硫酸塩温泉・硫黄泉

後生掛温泉 硫酸塩泉 硫黄

Pic. 後生掛温泉

定義

硫酸塩温泉
『溶存物質 (ガス性のものを除く)が1000 mg/kg以上であり、陰イオンの主成分が硫酸イオンである温泉』

硫化水素泉・硫黄泉
『総硫黄2 mg/kg以上を含む冷鉱泉である。
ただし、[H2S]>[HS]+ [S2O32-]である硫黄泉は、硫化水素型と区別することがある』

成因

いずれも硫黄が関与した温泉です。硫黄の起源として多いのは、火山ガスです。火山ガスには、普遍的にH2SやSO2が含まれます。

これが、酸素を豊富に含んだ地下水と反応した場合、硫酸(H2SO4)に変化して、硫酸塩泉を形成します。
一方で、還元的な条件下(酸素が少ない条件)では硫黄は酸化しないため、硫化水素など還元的な硫黄を含む硫黄泉や硫化水素泉になります。そのため、硫酸塩泉、硫化水素泉、硫黄泉には概ねpHと相関があります(図参照)。

図. pHと硫黄を含む温泉の関係

少し詳細に記載すると、好気性条件下(酸素が多い)になると、硫黄は酸化され硫酸になり、pHが下がります。逆に嫌気性条件下(酸素が少ない)では、硫化水素になり、硫化水素泉となります。ただし、嫌気性条件化でかつpHが高い条件(アルカリ性)では、H2Sとなる十分なH+がないため、硫黄泉となります。

火山ガス以外の硫黄の起源としては、グリーンタフと言われる緑色凝灰岩が分布する地域でも湧出します。グリーンタフは、海底火山活動によって形成された地層です。この地域では、黒鉱といわれる硫化鉱物が産出することからもこの地層に硫化鉱物が含まれます。この地層からSO42-が溶出して、硫酸塩泉を作ることがあります。このような温泉は、グリーンタフ型温泉と区別されることもあります。基本的な泉質は、Ca-Na塩化物・硫酸塩泉になります。

主な温泉

硫酸塩泉
・四万温泉/群馬
・箱根強羅温泉/神奈川
・伊香保温泉/群馬

硫黄泉
・草津温泉/群馬
・月岡温泉/新潟
・後生掛温泉/秋田
・雲仙温泉/長崎

含鉄泉

別府 血の池地獄

Pic.別府 血の池地獄

定義

含鉄泉
『溶存物質 (ガス性のものを除く)が1000 mg/kg以下であり、総鉄イオン(Fe2+,Fe3+)が20mg/kg含む温泉』

含鉄泉には、炭酸水素型と硫酸型があります。

成因

赤褐色が特徴的な温泉です。これは、温泉に含まれるFe3+の影響です。Fe3+は水に溶かすと赤褐色となるため、このような色になります。
ただし、湧出直後は還元的な条件であるため、Fe2+が優勢のため無色透明です。その後、空気と触れることで酸化し、赤褐色となります。

含鉄泉の成因に関する情報は非常に少なく、包括的な議論は難しいため、個別に考えられること記載しています。

有馬温泉の場合は、プレートに含まれた海水が起源であると推定されています。また、沈み込んでいるプレートも比較的若いと言われています。このプレートは、玄武岩のため鉄を多く含みます。そのため、高温高圧化では玄武岩由来の鉄を多く溶かすことで有馬温泉の含鉄泉は形成されていると推察されます。

福島付近では、硫酸型の含鉄泉があります。長野や岐阜、山梨にも含鉄泉があります。赤色土のような風化して鉄分を豊富に含む地層の影響を受けているのか、フォッサマグナやグリーンタフなどの影響受けているのかなど、地域特有の地層が影響している可能性もあるように思いました

主な温泉

・有馬温泉/兵庫
・長良川温泉/岐阜
・伊香保温泉/群馬
・鉄輪温泉/別府

酸性泉

定義

『溶存物質 (ガス性のものを除く)が1000 mg/kg以下であり、水素イオンが1mg/kg以上含む温泉』

成因

これは、基本的には硫酸塩泉の成因と類似しています。pHを下げる原因は基本的には硫酸が起因しています。そのため、硫酸塩泉の解説をご覧ください。

また、一部では塩酸によるpHの低下もありますが、かなりレアなので今回は省略します。

主な温泉

・草津温泉/群馬
・玉川温泉/秋田
・須川温泉/岩手

含ヨウ素泉

定義

『溶存物質 (ガス性のものを除く)が1000 mg/kg以下であり、よう化物イオンが10mg以上含有する温泉』

成因

ヨウ素の起源は、地層中に取り込まれた藻類などの分解が深く関与していると言われています。加えて、珪藻のような非晶質珪酸からなる微化石と地下水に溶け込んだことも指摘されています(Kamei, 2001)。

東京もかつは、埼玉県浦和市付近まで海洋であったことが知られています。そのことから、藻類を貯めた層が都内であっても不思議ではありません。

主な温泉

・強首温泉/秋田
・前野原温泉/東京

放射能泉

定義

『溶存物質 (ガス性のものを除く)が1000 mg/kg以下であり、ラドン(Rn)が30×10-10キュリー以上(8.25マッへ単位以上)含まれている温泉』

成因

放射能泉は、花崗岩地域に多い特徴があります。これは、花崗岩がラドン(Rn)の親元素でウラン(U)を比較的多く含むことに起因します。

ウラン(U)は、不適合元素と言われ鉱物に取り込まれにくい性質を持ちます。そのため、マグマの分化過程において最後に取り込まれます。マグマは、最後に生成するのは花崗岩のような珪長質な岩石になるため、花崗岩はウラン(U)を多く保有しています。

ウラン(U)は、以下のような放射壊変を得てラドン(Rn)となります。他にもトリウム(Th)からもラドン(Rn)は発生します。

\[ ^{238} U \to \ ^{234}Th \to \ ^{234}U \to \ ^{230}Th \to \ ^{226} Rd \to \ ^{222}Rn \]

そのため、温泉の母岩が花崗岩である場合に、熱水がラドンを取り込み放射能泉を形成します。
ただし、花崗岩は深成岩であることもあり、割れ目が発達しにくく、断層のような割れ目が発生した場合に湧出します。
また、東日本より西日本に放射能泉は多い傾向があります。これは花崗岩に種類に影響します。花崗岩にもI-type、S-typeという分類があります。I-typeは、火山弧型の花崗岩で比較的苦鉄質の傾向があります。一方で、S-typeは、堆積岩が溶融できたことから珪長質である傾向があり、ウランを含む不適合元素を含みやすい傾向にあります。そのため、S-typeの花崗岩が多い西日本に放射能泉も多い傾向があります。また、I-type、S-typeの分類は、帯磁率とも相関があるため、磁鉄鉱系、イルメナイト系の分類で考えても問題ありません。花崗岩の分類について、詳しくは以下のサイトでご覧ください。

ウランやトリウムは、放射性同位体があるため岩石の年代測定など研究にもよく使用されます。放射性同位体に興味がある方は以下のサイトもご覧頂けると幸いです。

主な温泉

・増富温泉/山梨
・三朝温泉/鳥取
・村杉温泉/新潟

単純温泉・アルカリ単純温泉

定義

単純温泉
『溶存物質(ガス性のものを除く)が1 000 mg/kg に満たないもので,泉温が25 ℃以上のものを単
純温泉』

アルカリ単純温泉
『現地(湧出地)でのpH 測定値が8.5 以上の単純温泉をアルカリ性単純温泉』

成因

上記に記載するような特徴をいずれも有していない温泉になります。上記のような特殊条件がなく、温められた温泉です。

日本のような地質では、天水由来の地下水が温められた温泉や加水して作られている温泉はこのような傾向を示しやすいと考えられます。

また、古い地下水は砂礫などと接触してアルカリ成分を溶かし出し、アルカリ性を示すようになります。また、粘土鉱物が水素イオンを吸収することもあるそうです。

おまけ(メカニズムによる分類)

上記までは成分にフォーカスした分類でしたが、これとは別にメカニズムによる分類もあります。ただし、かなりざっくりした分類になります。

火山性温泉

火山によって温められ、かつ火山由来の成分を含んだ温泉です。多くの温泉地域は、火山の近くに分布しています。

非火山性温泉

これには大きく分けて2種類あります。

1つが、深部熱水型です。深部熱水型は、単純に深いところから湧出している温泉です。火山がなくとも地下へ行けばマントルが近くなってくるため、温度が上がります。火山地域と比べたら温度勾配は緩いですが、確実に暖かくなります。

もう1つが化石海水型です。かつて、日本の一部は海底にありましたが、火山活動やプレートの活動によって現在のような日本列島を形成しています。その過程で海水を地中に取り込んで閉じ込めている場合があります。このような温泉は、化石海水型の温泉と言われます。

参考文献

鉱泉分析法指針(H26改訂)
日本の温泉成分の特徴と起源
ヨウ素と微生物の相互作用 天知誠吾

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