温泉・地熱とシリカスケール -原因と対策、及び析出温度の推定-

地熱発電や温泉において、よく問題となるのがスケールです。

よく問題となるスケールの種類としては、酸化鉄、炭酸カルシウム、シリカが挙げられます。

今回はシリカスケールについて、取り上げます。

シリカスケールとは?

シリカスケールは、温泉などに含まれるケイ素(Si)析出できる無水ケイ酸鉱物(SiO2)です。

シリカ鉱物は、厳密には結晶構造の違いによって、アモルファスやクリストバライト、石英などが存在し、それぞれ溶解度が異なります。

シリカスケールで問題となるのは、ほとんどが温度帯(<100℃)となるため、ほとんどが非晶質構造のアモルファスです。

原因

主な原因には以下が挙げられます。

  • 温度低下
  • 蒸発による濃縮
  • 塩分やpH、その他溶存成分の影響

特に、多いのが温度低下です。

シリカの溶解度は、温度低下とともに低下します。

そのため、150~250℃で生成された地熱や温泉は、シリカを多く含んでおり、地上で使われるときの温度では過飽和となって、析出します。

上記のような条件が発生する部分としては、熱交換器出口やセパレーターなどの温度低下した箇所でよく析出します。

対策

対策としては、以下が挙げられる。

  • 滞留槽法
  • 金属イオン(Al3+,Fe3+)添加&分離
  • pH調整法
  • 高温還元法
  • 希釈還元法

滞留槽法

30~60分滞留させることでシリカを重合させることでシリカスケールの生成を抑制する方法です。

金属イオン(Al3+,Fe3+)添加&除去

金属イオンを添加することでシリカ化合物を生成し、遠心分離や浮上分離などによって除去する方法です。

pH調整法

シリカスケールは、Si-OH →Si-O + H+ の反応できたシラノール基(Si-O)にモノケイ酸(Si(OH)4)が反応して成長すると考えられています。

pHを下げることで、Si-OH →Si-O + H+ の反応抑制することで成長を抑制する方法です。

ただし、酸性側への調整になるので、配管腐食などの影響が考えられます。

高温還元法

シリカは、温度が下がると溶解度が下がります。高温を保てば、高い溶解度を保つことができるため、シリカスケールを抑制できます。

希釈還元法

希釈することでシリカの濃度を下げ、飽和状態になることを防ぎます。

希釈水の金属イオンやpHによって、スケールを促進してしまうので注意が必要です。

析出温度と溶解度の推定

上記の対策の中で温泉などでも比較的安易できるのは、高温還元法と希釈還元法になるかと思います。

これらの方法でポイントになるのが、以下の2点です。

  • どの程度希釈が必要か?
  • 何℃に保てば良いのか?

以下では、シリカスケールの溶解度を温度から推定する方法を2つ紹介します。

100℃以下では、シリカスケールはほとんどがアモルファスとして析出するので、アモルファス溶解度に焦点を絞ります。

また、塩析、pH、その他溶存成分による影響は考慮しません。

シリカ温度計の応用

シリカ温度計は、シリカ濃度から温度を推定する式がRobert O Fournierによって提言されています。

この式は、シリカ溶解度が平衡状態であることを前提に作られています。

具体的には、以下の式です。適用範囲は0-250℃です。

地化学温度推定式 \[ t(℃) = \frac{731}{4.52 \ – \ \log S} \ – \ 273.15 \] \[ S:シリカ溶解度 \ (mg/kg) \]

これを、変換することである温度における溶解度[mg/kg]が求められます。

温度によるシリカ溶解度推定式 \[ \log S = – \frac{731}{T(℃) \ + \ 273.15} + \ 4.52 \] \[ S \ [mg/kg]= 10^{\log S} \]

例1)

   SiO2 = 100 mg/kg としたとき、シリカが析出する温度は?

\[ t(℃) = \frac{731}{4.52 \ – \ \log 100} \ – \ 273.15 \] \[ t(℃) = \frac{731}{4.52 \ – \ 2} \ – \ 273.15 \] \[ t(℃) = \ 16.9 \]

   16.9℃でシリカが析出することがわかります。

例2)

1kgの水にSiO2 200 mg含んでいる温泉(シリカ濃度 200 mg/kg)を 、温度を40℃まで下げたいとき加える水量は?

40℃のときの飽和溶解度は、 \[ \log S = – \frac{731}{40(℃) \ + \ 273.15} + \ 4.52 \] \[ S \ = 153.34 \ [mg/kg] \] 47 mg/kgほどオーバーしていますので、40℃まで下げると析出します。 \[ \frac{200}{153.34} = 1.30 \] 1.3倍ほど希釈する必要があるので、余裕見て1.5倍希釈するとします。 シリカを含まない水0.5kg 加えると、1.5kgの水にシリカ 200 mg含んでいる温泉になります。 シリカ濃度は133.3 mg/kgとなり、153.34 mg/kgを下回るため、理論上析出しなくなります。

アモルファスモル溶解度と温度(Fournier and Marshall, 1983)

こちらもRobert O Fournierによって提言された推定方法です。

上記との違いは、モル数溶解度を推定する点です。そのため、モル数から溶解度への変換が必要になります。

適用範囲は90-340℃です。具体的には、以下の式の通りです。

\[ \log m = -6.116 + 0.01625\ T -1.758 \times 10^{-5} \ T^{2} + 5.257 \times 10^{-9} \ T^{3} \] \[ m:シリカモル濃度 \ (mol/kg) \] \[ T:温度 \ (K) \] \[ m \ = 10^{\log m} \ [mol/kg] \] \[ SiO_2 \ = 60.1 \ [g/mol] \] \[ S \ [mg/kg]= m \times 60.1 \ [mg/kg] \]

自動計算サイト

上記の計算が面倒だなと思った方は、以下のサイトの自動計算をお試しください。

私が作成したアプリケーションになります。

https://www.isenthalpiccalc.com/geo/Si

まとめ

上記、2つの式は、適用温度が異なりますが、40~80℃までは以下の図のようにほとんど差がありません。

それよりも、温泉中の塩分(塩化ナトリウムや塩化カルシウムなど)やpHの影響のほうが大きいです。

最終的には、現地で実験しながら最適な条件を探ることになると思います。

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