地熱発電や温泉において、よく問題となるのがスケールです。
よく問題となるスケールの種類としては、酸化鉄、炭酸カルシウム、シリカが挙げられます。
今回は炭酸カルシウムスケールについて、取り上げます。
炭酸カルシウムスケールとは?
炭酸カルシウムは、カルシウム(Ca2+)と炭酸イオン(CO32-)が反応して形成されます。
炭酸カルシウムには、結晶系の違いでカルサイト、アラゴナイト、バテライトがあります。
それぞれ若干、溶解度が異なりますが、温泉や地熱由来の場合は多くがアラゴナイトです。
ただし、温度が下がった部分(40℃以下)では、カルサイトも確認されます。
また、炭酸イオンは以下のような反応して、水分中に溶けています。
カルシウムは、そもそも溶けやすい元素で岩石中の長石や雲母などから溶け出したものが溶存しています。
スケールの原因
スケールは、溶解度が低くなることや成分が濃縮することで濃度が上がることで沈殿し始めることに起因します。具体的には、以下のような要因が悪さします。
- 温度上昇
- pHの上昇
- フラッシュ(沸騰)
- 空気への放出
- 配管腐食
以下でそれぞれについて、解説します。
温度上昇
炭酸カルシウムは、温度とともに溶解度が低下します。
下図は、様々な炭酸カルシウムスケール関する論文をまとめて、グラフにしたものです。
図.炭酸カルシウムの溶解度(Li Yiman,2017)
Kは溶解度積で、以下のように表せます。
\[ K = [Ca^{2+}] [CO_3^{2-}] \]数値が高いほど良く溶け、低いほど溶けにくくなります。
図のように炭酸カルシウムは、温度が上昇すると溶解度が下がるので、温泉を温めたりするときは注意が必要です。
pHの上昇
下式にあるように炭酸イオン(CO32-)を生成する反応は、H+を発生させます。pHが高い条件(アルカリ条件)の場合、反応が右に進みます。
\[ H_2CO_3 \leftrightarrow H^{+} + HCO_3^{-} \] \[ HCO_3^{-} \leftrightarrow H^{+} + CO_3^{2-} \]炭酸イオン(CO32-)が増えると、炭酸カルシウムは生成されやすくなるので、スケールが付着しやすくなります。
フラッシュ(沸騰)
フラッシュは、これまで二酸化炭素にかかっていた圧力が蒸気に分散されることで、CO2分圧が急激に低下し、脱ガス反応が起きます(下図、Arnorsson, 1989)。
温泉や地熱では、炭酸がpHにおいて支配的であるため、脱ガスによってpHが上昇します。
上記のpHで説明したように、pHの上昇は炭酸カルシウムスケールを促進するため、スケールが付きやすくなります。
〇井戸坑内でスケールが付きやすい理由
井戸坑内でもっともスケールが付く理由としては、160-180℃付近が最もCO2の溶解度が低いため、急激に脱ガス進むため、高温である井戸坑内が最も炭酸カルシウムスケールが付きやすいポイントなります(Arnorsson, 1989)。
図. ヘンリーの法則を考慮した上での二酸化炭素の溶解度(Arnorsson, 1989)
空気への放出
空気中に放出された場合、井戸坑内と比べて圧力が低いため簡易にCO2ガスが抜けます。
これは、上記のヘンリーの法則によるものです。高圧であるほどガスたくさん溶けますが、低圧だと溶けにくい傾向にあります。
また、炭酸は刺激に弱く、刺激を加えると簡単にCO2が抜けます。炭酸飲料を振ると、炭酸が抜ける現象と同様です。
配管腐食
配管が腐食する際に、以下のような反応が生じます。
\[ Fe_{(s)} + 2H^{+} \to Fe^{2+} + H_2 \]H+を吸収する反応のため、この反応もpHを上昇させます。
ただし、影響は限定的なので、そこまで気にしなくても大丈夫です。
対策
炭酸カルシウムの対策には様々あるので、状況に応じて最適な方法を選択することになります。
ここでは、一部を紹介します。
- 薬液注入
- 大気開放させない
薬液注入
最も一般的な方法ですが、薬液にも様々あります。
一つには、pH調整剤。これは、先ほどの説明の通り、pHが低いほうが析出しにくくなります。
ただし、配管の腐食させる恐れがあるので注意が必要です。
他には、脱酸素剤、分散剤などがあります。
大気開放させない
大気開放させると、空気と接触するため、沈殿しやすくなります。
また、100℃を超えるような温泉であった場合、二酸化炭素の脱ガス反応によってpHを上げる可能性があるので、大気開放にしないと抑制できる可能性があります。
ただし、高温高圧で保持するのは難しいこともあるので、安全への配慮が必要です。
飽和指数(SI)の計算
温泉などから炭酸カルシウムを析出するか否かは飽和指数(SI)を求めることが予測ができます。
ここでは、簡易的な計算方法について解説します。
まず、飽和指数とは『飽和溶解度に対して、どの程度溶けているのか』を数値化した指数です。
SI>0 で過飽和、SI<0で不飽和です。
具体的には、以下の式になります。
溶解度積 Kは、鉱物ごとに決まっており、Plummer et al., 1982より以下のように表すことができます。Tは、絶対温度(K)です。
\[ \log K_{calcite} = -171.9065 -0.077993 \ T +\frac{2839.319}{T} +71.595 \log T \] \[ \log K_{aragonite} = -171.9773 -0.077993 \ T +\frac{2903.293}{T} +71.595 \log T \] \[ \log K_{vaterite} = -171.1295 -0.077993 \ T +\frac{3074.688}{T} +71.595 \log T \]log Qについては、炭酸の第二酸解離定数から導出します。ただし、この時炭酸成分間は平衡状態が成立しているとします。
計算例)
Ca2+ が19.24mg/L HCO3–が66.14 mg/L, pH=7.0とするときの100℃でのアラゴナイトの飽和指数を計算する。
ただし、Caは40.078 g/mol ,HCO3–は61.0168 g/molとする。
まず、mol/Lに変換します。 \[ [Ca^{2+}] = \frac{19.24}{40.078} = 0.480 mmol/L \] \[ [HCO_3^{-}] = \frac{66.14}{61.0168} = 0.480 mmol/L \] \[ [H^{+}] = 10^{-pH} = 1.0 \times 10^{-7} mol/L \] 次にK2とQを求めます。 \[ \log K_2 = -107.8871 -0.03252849 \ (100+273.15) +\frac{5151.79}{373.15} + 38.9561 \log 373.15 – \frac{563713.9}{373.15^2} \] \[ \log K_2 = -10.155 \] \[ K_2 = 6.99 \times 10^{-11} \] これらの値を代入すると、 \[ \log Q = -9.1890 \] 次にアラゴナイトの溶解度積を求める。 \[ T = 100 + 273.15 \] \[ \log K_{aragonite} = -9.1659 \] 最終的な飽和指数は、 \[ S.I.(飽和指数) = \log Q – \ \log K = -9.1890 – (-9.1659) = -0.0231 \]S.I. < 0 となるため、不飽和のため、析出しない結果となりました。
自動計算サイト
自動で計算するサイトを別途作成しております。もしよければ、お使いください。
https://www.isenthalpiccalc.com/geo/cal
まとめ
実際には、細かい現地状況によって変わりますが、ご参考になれば幸いです。