同位体を用いた年代測定や岩石の起源を調べる手法として、Rb-Sr法やK-Ar法、U-Pb法など様々あります。今回はRb-Sr法について、解説します。
同位体年代測定について、初めて勉強する方は以下の記事を読んでからのほうが理解がスムーズかと思います。
Point!
- 87Rb-87Srの基本
- β崩壊
- 年代の導出
87Rb-87Sr法とは?
87Rbは、 β−崩壊※ によって、87Srに放射壊変します。
87Rb-87Sr の半減期は、4.88×1010 年 です。(壊変定数:λB = 1.42×10−11 yr−1)
この 87Rb から変化した 87Sr がどれくらいあるのか求めることで、岩石の生成年代や初期のマグマの特性を把握します。
以下が算出で使用する式になります。
両辺を \(^{86}Sr \) で割ると、
\[ \frac{^{87}Sr}{^{86}Sr} = \left(\frac{^{87}Sr}{^{86}Sr}\right)_0 + \frac{^{87}Rb}{^{86}Sr} \left(e^{λt}-1\right) \] \[ 壊変定数 λ_β = 1.42 \times 10^{-11} yr^{-1} \]86Srで割る理由としては、87Srの含有量(絶対値)が鉱物によって異なるためです。例えば、SrはCaを置換したり、Caと似た挙動をします(価数とイオン半径の類似性により)。そのため、斜長石(Pl)やアパタイト(Ap)などCaを多く含む鉱物に多く含みますが、カリ長石などにはほとんど含みません
一方、 87Sr と86Sr の比率については、同位体分別※が発生しないため、どの鉱物でも初生値は同じであると考えることができます。 87Sr は、87Rb の放射壊変によって時間と共に増加していきます。86Sr は安定同位体のため、初期から増加しません。以上のことを踏まえて86Srで割って、比率で見れるようにします。
この考え方は、別記事で記載のSm-Nd法、U-Pb法で同様です。
※β−崩壊
中性子が電子(ベータ粒子)と反電子ニュートリノを放出して陽子になる放射壊変です。(以下の式参照)
n:中性子、P+:陽子、e–:電子、Ve:電子ニュートリノ
87Rb → 87Sr を例に説明します。87Rb 、 87Srは元素構成は、以下のようになっています。
87Rb:原子番号37番、陽子37個、中性子50個
87Sr: 原子番号38番、陽子38個、中性子49個
陽子が+1、中性子がー1になっています。これは、中性子から電子が放出されて、陽子に変化したためです。
このように電子の放出による元素の変化を ” β−崩壊” と言います。
※同位体分別
同位体の存在比が、温度などによって変化することがあります。酸素や水素などが同位体分別を起こす同位体としては有名です。RbやSrは、そのような現象は、基本的には起きないため存在比が変わることを考慮する必要はありません。
岩石年代の導出
岩石の年代と初期値 ( 87Sr / 86Sr )0 の導出
具体的に年代tと ( 87Sr / 86Sr )0 を導出していきたいと思います。
87Sr / 86Sr = ( 87Sr / 86Sr )0+ 87Rb (eλt – 1 ) / 86Sr
現代で測れない未知数は2つ(赤字)です。そのため、2つ以上の式が必要になります。
今回は、以下のとある岩石の5つ鉱物のデータを用いて導出していきます。
Table. 87Rb/86Sr と 87Sr/86Sr の測定データ
87Rb/86Sr | 87Sr/86Sr |
0.2618 | 0.711018 |
0.1362 | 0.70582 |
0.1871 | 0.707948 |
0.2496 | 0.710641 |
0.00366 | 0.700211 |
これらを、グラフ化すると、近似直線が得られます。
Fig. 87Rd–87Sr evolution diagram showing the isochron generated by the minerals
この近似直線は、以下のように解釈できます。ちなみに、この近似直線を ”アイソクロン(Isochron)” と言います。
傾き = (eλt – 1 ) = 0.0421
切片 = ( 87Sr / 86Sr )0 = 0.7001
ここから、年代を計算します。
eλt – 1 = 0.0421
eλt = 0.0421 + 1
t = ln(0.0421 + 1) / λB
t = 2.94E+09 (29億4136万2911年)
この岩石は、約29.4億年前ですね。太古代なので、現存する岩石では最古の年代に分類されます。
自動計算サイト
計算が面倒な方向けに自動計算のサイトを作成してあります。ご利用ください。
データ精度
今回は、5つのデータを使用しましたが、多ければ多いほど良いです。
また、 87Rb/87Srの数値にある程度、幅を持たせたること、Rbが多く含む鉱物のデータを使用するとより良くなります。
狭い範囲での計算やRbが少ないところだけでは、測定誤差の影響が出てきます。 全岩での同位体測定に加えて、鉱物ごとの同位体測定を行うと良いと思います。
この年代測定の懸念事項は、Srが比較的風化の影響を受けやすいことが挙げられます。Srが風化の過程で逃げてしまい、87Rb/87Srが本来より高くなり、年代が若く出ます。
グラフで説明すると、プロットが右にズレるので、傾きが下がる=年代が若く出ます。
精度を気にされるのであれば、最近ではジルコン中のU-Pb法が非常に精度が高いと言われていますので、そちらをオススメします。
今回は年代測定を例に説明しましたが、87Rb-87Srや147Sm – 143Ndを組合せて、初期の同位体比からマグマの特性やプレートテクトニクスの推定に使ったりもします。
こちらの記事(147Sm – 143Nd 法)も良かったご覧ください
また、これを機に同位体化学を学んでみたい方は、是非以下の参考書をご覧ください。
オススメ参考書&参考文献
1.同位体岩石学
岩石の分析で同位体を使う方はこちらがオススメです。私は、主には基本的なことはこれで勉強しました。
2.Cosmochemistry (English Edition)
本気で同位体を勉強したい&英語に抵抗がない方はこちらをオススメします。
基本的な考え方から全て載っています。また、年代測定方法ごとの特性や測定方法の歴史、実際の例などが載っています。
同位体には 惑星地質学 の話がついて回ります。(地球の初期の化学組成など)
元は宇宙科学の本なので、同位体を惑星地質学からしっかり学びたい方にオススメです。
3.Rb-Sr 法 柴田賢
この論文も基本的なことは学べると思います。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/94/7/94_7_682/_pdf