同位体

放射性同位体による年代測定法の基本原理と半減期

同位体

同位体年代測定として、14CやRb-Sr法、U-Pb法などがメジャーであるが、ここではこれらの同位体年代測定の基本となる考え方を説明します。

概要

同位体年代測定は、放射性同位体を用いた年代測定方法です。

”放射性同位体” は、放射壊変(α壊変、β壊変など)によって変化する元素のこと言います。これらの元素は、時間に伴い、元素中の陽子や中性子の数が変化し、異なる元素になります。

この時の放射性同位体の減少量から年代を測定する方法になります。

基本原理

放射性同位体と半減期

”放射性同位体” は、放射線を出しながら変化する元素のこと言います。

放射性同位体は、そもそも不安定な元素です。

そのため、より安定した元素になろうと、元素中の陽子や中性子の数を変化させ、異なる元素になります。これを ”放射壊変” と言います。

放射壊変には、”α壊変、β壊変”、γ壊変など様々あります。また、電子を受け取ることで壊変することもあります。

また、この壊変によって放射性同位体が半分の量になるまでにかかる時間を ”半減期” と言います。

主要な年代測定に用いられる半減期については、以下の表に整理しました。

表. 同位体年代測定に用いられる半減期と壊変定数

年代測定法半減期壊変定数
87Rb-87Sr4.88×1010 yr1.42 × 10-11 yr-1
147Sm-143Nd1.06×1011 yr6.54 × 10-12 yr-1
238U-206Pb4.468×109 yr1.55125 × 10-10 yr-1
235U-206Pb0.7038×109 yr9.8485 × 10-10 yr-1
40K-40Ar1.250×109 yr5.543 × 10-10 yr-1
14C-14N5.70×103 yr1.209 × 10-4 yr-1

年代測定の基本式

前段として、放射性元素を“親元素”、放射性壊変によってできる元素を”娘元素”と呼びます。

親元素の元素数は、”N”で表され、the Number of atomsの略です。

娘元素の元素数は、”D”で表され、the number of Daugher atomsの略です。

以下から、本題です。

基本式は以下の通りです。

放射性同位体年代計算の基本式

\[ D = D_0 + N( e^{\lambda {t}}-1 ) \quad \cdots (1)\] \(N:現在の親元素数\), \(t:時間\), \(D:現在の娘元素数\), \(D_0:初期の娘元素数\)

非常に重要な式になるので、“基本原理””基本式の導出”に分けて、わかりやすく解説していきます。

基本原理

上記の基本式の元になっているのは、以下の原理と式になります。

放射壊変の基本原理:放射性壊変の速度は、放射性同位体の量に比例する

\[ -\frac{dN}{dt} \varpropto\ N \Rightarrow -\frac{dN}{dt} = \lambda N \quad\cdots (2) \] N:親元素数、t:時間、\(\lambda \):壊変定数

放射壊変は、全ての元素で同時には起こらず、順次変化していきます。

バナナなどの食べ物が腐っていくのをイメージしてもらうとわかりやすくかと思います。

N個の親元素のうち、ランダムにある確率”X”で壊変していくとします。

そのとき、放射性同位体の減少量を “-dN” とすると、

\[ -{dN} = xN \]

さらに、 この変化のうち時間”dt” で起きた部分だけ切り抜くと、以下のように表せます。

\[ -\frac{dN}{dt} = \frac{x}{dt} N \]

この が、\(\frac{x}{dt}\) がいわゆる壊変定数\(\lambda\)です。

要するに、壊変定数は”時間あたりの壊変確率”とも言えます。そのため、単位は[yr-1]となり、時間の逆数になります。

式で表す以下の通りです。

\[\frac{x}{dt} = \lambda \] \[ -\frac{dN}{dt} = \lambda N \] \[ -\frac{dN}{N} = \lambda {dt}\]

これをそれぞれ積分して、解きます。

\(t: 0 \to {t}\) のとき、\(N: N_0 \to {N}\)とすると、 \[ \int_{N_0}^{N} -\frac{dN}{N}dN = \lambda \int_{0}^{t}{dt} \] \[ \ln\frac{N}{N_0} = -\lambda {t} \] \[\qquad N = N_0 e^{-\lambda {t}} \quad \cdots (3)\]

式(3)が、よく見る放射性同位体の推移グラフになります。

t→∞とすると、e-λtが0に収束するため、式全体が0に収束するような漸近線が引けるようになります。

t→0とすると、e-λtが1に収束するため、式全体がN0に収束するようなになります。

基本式の導出

上記の式(3)を用いて、式(1)を導出します。

まず、放射壊変によってできた娘元素(D*)と、現在の娘元素(D)は以下の式で表せます。

\[ D* = N_0 – N \quad \cdots (4) \] \[ D = D_0 + D* \quad \cdots (5) \]

D*:放射壊変によってできた娘元素数
N0:初期の親元素数   N :現在残っている親元素数
D0:初期の娘元素数  D:現在の娘元素

放射壊変によってできた娘元素数(D*)は、放射壊変した親元素の数なので、初期にあった親元素(N0)から現在の親元素(N)を引きます。

現在の娘元素(D)は、初期にあった娘元素(D0)に放射壊変でできた娘元素(D*)を足した数です。

続いて、式(4)のN0に式(3)を代入します。

\[ D* = N e^{\lambda {t}} – N\] \[ D* = N (e^{\lambda {t}} – 1)\]

最後に上記の式を式(5)のD*に代入すると、

\[ D = D_0 + N( e^{\lambda {t}}-1 )\]

式(1)が導出できました!

上記までのように式(3)が出てしまえば、実は大したこと難しい計算はありません。

半減期の導出(おまけ)

上記までの計算が分かれば、これも簡単です。

まず、半減期の定義は”親元素が半分になるまでの時間”です。

t = \(T_{\frac{1}{2}}\)のとき、以下のように書けます。

\[ N = \frac{1}{2}N_0 \]

これを式(3)に導入して解きます。

\[ \frac{1}{2}N_0 = N_0 e^{-\lambda {T_{\frac{1}{2}}}}\] \[ \frac{1}{2} = e^{-\lambda {T_{\frac{1}{2}}}}\] \[ \ln {\frac{1}{2}} = -\lambda {T_{\frac{1}{2}}} \] \[ \ln 2 = \lambda {T_{\frac{1}{2}}} \] \[ {T_{\frac{1}{2}}} = \frac{\ln {2}}{\lambda}\]

この式からわかるように半減期は、壊変定数からも求めることができます。

まとめ

あまり議論されることの少ない同位体年代の本当に基礎的な部分を解説しました。

その他関連記事では、個別の測定方法について詳しく解説していますので、是非ご覧ください。

オススメ参考書

1.同位体岩石学

岩石の分析で同位体を使う方はこちらがオススメです。私は、主には基本的なことはこれで勉強しました。

2.Cosmochemistry (English Edition)

本気で同位体を勉強したい&英語に抵抗がない方はこちらをオススメします。
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同位体には 惑星地質学 の話がついて回ります。(地球の初期の化学組成など)
元は宇宙科学の本なので、同位体を惑星地質学からしっかり学びたい方にオススメです。

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