同位体を用いた年代測定や岩石の起源を調べる手法として、Rb-Sr法やK-Ar法、U-Pb法など様々あります。今回はSm-Nd法について、解説します。
同位体年代測定について、初めて勉強する方は以下の記事を読んでからのほうが理解がスムーズかと思います。
147Sm-143Nd法とは?
147Smは、 α崩壊※ によって、143Ndに放射壊変します。
147Sm-143Nd の半減期は、1.06×1011 年 です。(壊変定数:λα = 6.54×10−12 yr−1)
この 147Sm から変化した 143Nd がどれくらいあるのか求めることで、岩石の生成年代や初期のマグマの特性を把握します。
以下が算出で使用する式になります。(この式の導出についても、 同位体年代測定の基本 で解説しています。)
143Nd = 143Nd0 + 147Sm (eλt – 1 )
143Nd / 144Nd = ( 143Nd / 144Nd )0+ 147Sm (eλt – 1 ) / 144Nd
144Nd で割る理由としては、 144Nd の含有量(絶対値)が鉱物によって異なるためです。
一方、 144Nd と比較したの比率については、同位体分別※が発生しないため、どの鉱物でも初生値は同じであると考えることができます。 143Nd は、147Sm の放射壊変によって時間と共に増加していきます。144Nd も放射性同位体ではあるが、半減期が 2.4×1015 年 と非常に長いため、ほとんど変化しないものとして扱います(※1)
以上のことを踏まえて144Ndで割って、比率で見れるようします
(※1)”Observationally Stable” と言われます。日本語で ”観察上は安定” という意味になります。)
※α崩壊
原子核からHeの原子核(陽子2つ、中性子2つ)を放出する放射壊変です。
147Sm と143Ndを例に説明します。
147Sm:原子番号62番、陽子62個、中性子85個
143Nd: 原子番号60番、陽子60個、中性子83個
147Sm と比較して、143Nd 陽子がー2、中性子がー2になっています。式で書くと、、
147Sm →143Nd + 4He2+
4He2+ は一般的にαと書くので、以下のような式になります。
147Sm →143Nd + α
このようにヘリウム原子核の放出による元素の変化を ” α崩壊 ” と言います。
※同位体分別
同位体の存在比が、温度やマグマの分化などによって変化することがあります。酸素や水素などが同位体分別を起こす同位体としては有名です。SmやNdは、そのような現象は、基本的には起きないため存在比が変わることを考慮する必要はありません。
岩石の年代と初期値 ( 143Nd / 144Nd )0 の導出
具体的に年代tと ( 143Nd / 144Nd )0 を導出していきたいと思います。
143Nd / 144Nd = ( 143Nd / 144Nd )0+ 147Sm (eλt – 1 ) / 144Nd
現代で測れない未知数は2つ(赤字)です。そのため、2つ以上の式が必要になります。
今回は、以下のとある岩石の5つ鉱物のデータを用いて導出していきます。
Table. 147Sm/144Nd と 143Nd/144Nd の測定データ
147Sm/144Nd | 143Nd/144Nd | |
1 | 0.26684 | 0.51449 |
2 | 0.2521 | 0.514208 |
3 | 0.25847 | 0.514337 |
4 | 0.27032 | 0.514563 |
これらを、グラフ化すると、近似直線が得られます。
Fig. 147Sm–144Nd evolution diagram showing the isochron generated by the minerals
この近似直線は、以下のように解釈できます。ちなみに、この近似直線をアイソクロン(Isochron)と言います。
傾き = (eλt – 1 ) = 0.0193
切片 = ( 147Sm / 144Nd )0 = 0.5094
ここから、年代を計算します。
eλt – 1 = 0.0193
eλt = 0.0193 + 1
t = ln(0.0193 + 1) / λα
t = 2.92E+09 (約29億2000万年前)
この岩石は、約29.2億年前ですね。これは実は、Rb-Sr同位体で紹介した岩石と同じ岩石です。
2000万年ほどの誤差はありますが、この程度はしょうがないかなという印象です。
自動計算サイト
計算が面倒な方向けに自動計算のサイトを作成してあります。ご利用ください。
まとめ
今回は、4つのデータを使用しましたが、多ければ多いほど良いです。
また、 147Sm/144Ndの数値にある程度、幅を持たせたること、Smが多く含む鉱物のデータを使用するとより良くなります。
狭い範囲での計算やSmが少ないところだけでは、測定誤差の影響が出てきます。 全岩での同位体測定に加えて、鉱物ごとの同位体測定を行うと良いと思います。
この年代測定の懸念事項は、Rb-Sr法やU-Pb法と比べて、半減期が長いため、比較的新しい年代の測定での繊細な測定は難しいです。
精度を気にされるのであれば、最近ではジルコン中のU-Pb法が非常に精度が高いと言われていますので、そちらをオススメします。
今回は年代測定を例に説明しましたが、87Rb-87Srや147Sm –143Ndを組合せて、初期の同位体比からマグマの特性やプレートテクトニクスの推定に使ったりもします。
これを機に同位体化学を学んでみたい方は、是非以下の参考書をご覧ください。
オススメ参考書
1.同位体岩石学
岩石の分析で同位体を使う方はこちらがオススメです。私は、主には基本的なことはこれで勉強しました。
2.Cosmochemistry by Harry Y. McSween Jr Jr Gary R. Huss(2010-06-07)
本気で同位体を勉強したい&英語に抵抗がない方はこちらをオススメします。
基本的な考え方から全て載っています。また、年代測定方法ごとの特性や測定方法の歴史、実際の例などが載っています。
同位体には 惑星地質学 の話がついて回ります。(地球の初期の化学組成など)
元は宇宙科学の本なので、同位体を惑星地質学からしっかり学びたい方にオススメです。
参考文献
Rb-Sr 法 柴田賢
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jgeography1889/94/7/94_7_682/_pdf