同位体を用いた年代測定方法について、代表的な測定方法について紹介していきます。
ここでは、細かい話ではなく、ざっくりとした内容になっています。
14C 炭素同位体年代法
原理
炭素には12C、13C、14Cが存在します。
このうち、14Cは放射性同位体で、以下のようにβ崩壊します。
この反応における半減期を利用した年代測定法になります。
特徴
- 有機物を含む試料に適用される
- 比較的若い年代(数万年前まで)に適用される。(諸説あり)
- 初期値の推定が不要
有機物を含む試料に適用される
炭素を用いるので、金属のように炭素を含まない物質には使えません。
植物や生物などの有機物を含む試料に適用されます。
比較的若い年代(数万年前まで)に適用される。
半減期は、”約5730年”です。
これは、後述するRb-Sr法など比べるとかなり短い半減期になります。
そのため、数百万年前などの試料には適用できません。
初期値の推定が不要
14Cの存在比率は、現在と同様として計算されます。
そのため、現代の大気中の14Cの存在比率を初期値とすることができます。
ただし、正確には宇宙線の増減や海洋に溜め込まれた炭素の放出量によって変化するため、多少の誤差が生じることがある。
その場合は、年輪年代や年縞堆積物を利用した”年代較正”が実施されます。
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フィッション・トラック
原理
フィッション・トラックは訳すと、『核分裂飛跡』という意味です。
名前の通り核分裂したときの鉱物にできた傷跡を使った測定法です。
具体的には、238Uの自発核分裂を主に利用した測定法になります。
238Uは、放射壊変で206Pbに変化する一方で、ひとりで一定の速さで約140と約90の質量をもつ原子に崩壊する現象が生じます。(下図)
このとき、物質の配列が乱された跡を化学試薬によって腐食させて、光学顕微鏡で観察します。
この傷跡(フィッショントラック)の密度を用いて、年代を測定します。
特徴
- 光学顕微鏡で観察できる。
- 花崗岩のような火成岩では若い年代が得られる。
- 風化変質した試料にも適用可能。
光学顕微鏡で観察できる
フィッション・トラックを数えることで解析するため、AMS法のような大型の機械が不要です。
試料処理ができれば、光学顕微鏡で観察できます。
花崗岩のような火成岩では若い年代が得られる
フィッション・トラックは、熱で修復してしまうため、花崗岩のようなゆっくり固まる火成岩などでは年代が若く出る傾向があります。
急冷された火山岩などであれば、固結年代が正確に出ます。
風化変質した試料にも適用可能
ジルコン中のフィッション・トラックを用いるため、非常に安定した鉱物であるジルコンは風化の影響が受けにくいと言えます。
関連記事・論文
フィッショントラック年代測定 加藤進
核分裂飛跡(フィッション・トラック)法を用いた年代測定 檀原徹*
熱ルミネッセンス法(TL)
原理
熱ルミネッセンスとは、自然の鉱物には加熱すると発光する現象です。
これは、放射線などが当たると電子を放出し、鉱物の結晶内に補足されます。
それに熱を加えると、その電子が放出されることで発生します。
添付のYoutubeでは蛍石(フッ化カルシウム)に陽子ビームを照射して、プレートで熱して発光させています。
陽子ビームを照射することは、地球や宇宙からの放射線を照射させているのと同様です。
照射した時点での電子が発生するため、発光しますが結晶内に残存します。その残存した電子が熱せられ、発光しています。
この発光するときの蛍光の強さから受けた放射線量を推定し、年間放射線量で割ることで年代を測定します。
特徴
- 土器や石英、長石などで利用される
- 一般に数十年から数十万年前まで,つまり第四紀中〜後期における年代決定を得意
- 誤差10%程度。ただし、桁違いになるような大幅な誤差が少ない
- 一般的に年代は若く出る傾向がある
関連記事
参考文献
・熱ルミネッセンス年代測定 高島勲
電子スピン共鳴法(ESR)
原理
ESR年代測定法は、その不対電子の数量をマイクロ波で観察し、測定します。
不対電子がある状態は、一般的には不安定な状態です。ただし、不対電子は格子欠陥や不純物があると安定します。
試料が長年の自然放射線を受けていると、格子欠陥が増加するため、不対電子が安定しやすい状態になります。
すなわち、時間の経過ともに格子欠陥が増加し、それに伴い不対電子も増加します。
ちなみに、ここでの自然放射線としては、ウラン(U)、トリウム(Th)、カリウム(K)などの放射性元素からのα線、β線、γ線、宇宙からの宇宙線などが該当します。
また、不対電子は静磁場に置いたときにマイクロ波を吸収する性質を持ちます。
このマイクロ波を吸収したときの電子スピンのエネルギー状態の変化を電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)と呼びます。
このマイクロ波の吸収率の違いから、不対電子の数量と自然放射線を受けた量を想定し、年代測定を実施します。
特徴
- 測定可能な試料が多い
- 年代が古いと測定誤差が大きい
- 温度や圧力がかかると若く年代が出る。
参考文献
・電子スピン共鳴法の基礎と応用例 原英之
・電子スピン共鳴(ESR)年代測定法の 現状と問題点 塚本すみ子
Rb-Sr法
原理
87Rbは、 β−壊変によって、87Srに放射壊変します
87Rb-87Sr の半減期は、4.88×1010 年 です。
この半減期を用いて、以下の式から算出します。
特徴
- 幅広い岩石に活用される。
- 玄武岩や斑レイ岩などの苦鉄質岩には適さない
- SrとRbの出入りがないことが前提である。(Closed system)
- Rb/Sr比にバラつきを持たせると精度が良くなる
関連記事
Sm-Nd法
原理
147Smは、 α壊変によって、143Ndに放射壊変します。
147Sm-143Nd の半減期は、1.06×1011 年 です。
この半減期を用いて、以下の式から算出します。
特徴
- 玄武岩などの苦鉄質の火成岩に適用される。
- Rb-Sr法に比べ、変質や風化の影響も比較的受けにくい
- 変成を受けた岩石の晶出年代の特定が可能
- 先カンブリア時代の岩石の年代測定にも適する
玄武岩などの苦鉄質の火成岩に適用される。
SmやNdは、斜長石や角閃石、輝石などの鉱物から測定します。
そのため、これらの鉱物を多く含む苦鉄質岩(=塩基性岩)が有利である。
一方で、珪長質岩の場合はこれらの鉱物が少ないためSm/Ndが低く、精度が悪い。
Rb-Sr法に比べ、変質や風化の影響も比較的受けにくい
SmとNdは、3価のため不適合元素に属する。
そのため、RbやSrに比べれば溶解度が低いたため、比較的風化や変質に強いといえます。
変成を受けた岩石の晶出年代の特定が可能
先カンブリア時代の岩石の年代測定にも適する
上述の通り、不適合元素であるSmとNdは不適合元素であるため、変成岩であっても年代測定ができることがあります。
これは言い換えると、先カンブリア時代のような恐ろしく古い年代でもうまく年代測定できる可能性があるとも言えます。
関連記事
参考文献
・Sm-Nd法による年代測定 田中剛
・Cosmochemistry (English Edition) by Harry Y.McSween Jr Jr Gary R. Huss(2010-06-07)
Cosmochemistry (English Edition)
K-Ar法
原理
40Kは、 β–壊変によって40Caに、電子を捕獲によって、40Arに壊変します。
40K全体の約89%がCa、約11%がArに壊変します。
Caを用いた年代測定は、Caがさまざまの鉱物に含まれることなどから使いにくく、K/Ca比が低い鉱物にしか使えません。
そこで、考案されたのが、K-Ar法です。反応式は、以下の通りです。
\[ ^{40}K + e^- = ^{40}Ar + \gamma \]また、年代の導出式は以下のようになります。
表.40Kの壊変種類による半減期と崩壊定数(Steiger and Jäger (1977))
Pathway(壊変種類) | Half-life(半減期) | Decay constant(崩壊定数) |
β-decay | 1.397 × 109 yr | 4.962 × 10−10 yr−1 |
Electron capture | 1.193 × 1010 yr | 0.581 × 10−10 yr−1 |
Combined | 1.250 × 109 yr | 5.543 × 10−10 yr−1 |
特徴
- カリウムは多くの鉱物に含まれているため、広く適用可能
- 比較的若い年代(105~107年)の試料に有効である
- 実際の年代より若い年代が出やすい
カリウムは多くの鉱物に含まれているため、広く適用可能
カリウムは、様々な鉱物に含まれているため、活用の幅が広いです。
実際の年代より若い年代が出やすい
理由としては、Arが気体であるため逃げやすいことが挙げられます。
また、熱が加わった際もArが逃げやすい傾向ががあります。
大気からのアルゴンの侵入は、大気のアルゴンのほとんどが36Arや38Arのため、40Arと区別できるため比較的問題にはなりません。
参考文献
・第四紀研究におけるK-Ar法の過去・現在・未来 板谷徹丸・岡田利典
・Cosmochemistry (English Edition) by Harry Y.McSween Jr Jr Gary R. Huss(2010-06-07)
Cosmochemistry (English Edition)
U-Pb-Th法
原理
ウラン(U)には、235Uと238Uがあり、それぞれ207Pbと206Pbに壊変していきます。
トリウム(232Th)は、208Pbに壊変していきます。
式は以下の通りです。
\[ ^{238}U \rightarrow \ ^{206}Pb + 8\ ^{4}He + 6\beta^{-} \] \[ ^{235}U \rightarrow \ ^{207}Pb + 7\ ^{4}He + 4\beta^{-} \] \[ ^{232}Th \rightarrow \ ^{208}Pb + 6\ ^{4}He + 4\beta^{-} \]また壊変定数や半減期は以下の表の通りです。
表.U,Th壊変種類による半減期と崩壊定数(Steiger and Jäger (1977))
Isotope | Decay mode | Half-life(半減期) | Decay constant(崩壊定数) |
232Th | α-decay | 14.010 × 109 yr | 4.9475 × 10−11 yr−1 |
235U | α-decay | 0.7038 × 109 yr | 9.8485 × 10−10 yr−1 |
238U | α-decay | 4.468 × 109 yr | 1.55125 × 10−10 yr−1 |
特徴
- 同じ親元素(235Uと238U)からそれぞれ同じ娘元素(207Pbと206Pb)に放射壊変する
- 非常に半減期が長いため、古い年代が比較的得意
- ジルコン中のU-Th-Pbの年代測定の精度が非常に高い
同じ親元素(235Uと238U)からそれぞれ同じ娘元素(207Pbと206Pb)に放射壊変する
上述にあるように、ウラン(U)には、235Uと238Uがあり、それぞれ207Pbと206Pbに壊変していきます。
そのため、U-Pbを分析すれば、年代が2つ得ることができます。
この両方の年代が一致することで正確さが保証されます。
非常に半減期が長いため、古い年代が比較的得意
表にあるように非常に半減期が長いので、古い年代が得意です。
ただし、近年第四紀のような若い年代への活用が進んでいるようです。
ジルコン中のU-Th-Pbの年代測定の精度が非常に高い
この分析が非常に精度が高く、これだけで論文にできてしまいます。
ジルコンは、物理的にも化学的にも非常に安定した鉱物のため、放射壊変した元素が影響を受けにくいです。
また、ジルコン中にPbはほとんど存在しないため、Pbのほとんどを放射壊変でできたPbとして解釈できます。
仮にPbが失われた場合(Pb-loss)があっても、ジルコン形成時はPbを0とし、原点にプロットできることから年代を決めることができます。
これはコンコーディアというウランの放射壊変による同位体変化の軌跡とディスコーディアという原点を通る直線を用いて、導出します。
参考文献
・ジルコンをめぐる最近の話題 ーI.U-Pb法によるジルコン年代学- Makishima et al, 1993
・U-Pb 年代測定 報告書 産総研・株式会社京都フィッション・トラック, 2011
・Cosmochemistry (English Edition) by Harry Y.McSween Jr Jr Gary R. Huss(2010-06-07)
Cosmochemistry (English Edition)
まとめ
同位体の基本的なところまとめたような形なります。そのため、あまり複雑にならないように内容を一部、簡略化して伝えています。
さらに、理解を深めたい場合は分析方法やより詳しい元素挙動、結晶構造などについても学ぶとより理解が深まると思います。
オススメ参考書&参考文献
1.同位体岩石学
岩石の分析で同位体を使う方はこちらがオススメです。私は、主には基本的なことはこれで勉強しました。
2.Cosmochemistry (English Edition)
本気で同位体を勉強したい&英語に抵抗がない方はこちらをオススメします。
基本的な考え方から全て載っています。また、年代測定方法ごとの特性や測定方法の歴史、実際の例などが載っています。
同位体には 惑星地質学 の話がついて回ります。(地球の初期の化学組成など)
元は宇宙科学の本なので、同位体を惑星地質学からしっかり学びたい方にオススメです。