ここでは、バイナリー地熱発電における簡易的な出力の計算方法について、解説します。
フラッシュ発電の場合は、今回の計算と異なるため除外します。
バイナリー地熱発電とは?
フロンやアンモニアなど沸点が低い媒体を使用して、タービンを回して発電するシステムです。別名、温泉発電とも言われます。
図 バイナリー発電システムの構成例
(経済産業省HPから引用(※))
特徴としては、『比較的低温流体(<120℃)で使用できる』、『高温”熱水”で使用できる』ことが挙げられます。
通常のフラッシュ発電では高温高圧の蒸気を必要としますが、バイナリー地熱発電では温泉のような高温の熱水でも活用できます。
水の状態図とエンタルピー
後日更新予定です。他のサイトでも十分理解できるので、リンクを載せておきます。
計算方法
この計算は簡易的な計算方法となるため、出力を保証するものではありません。詳細については、別途メーカーに確認してください。
バイナリー発電機の発電効率は、機器や温度条件等によって異なります。地熱流体の温度が高いほどエントロピーが増加し、発電効率は上昇します。また、冷却能力が高いとタービン前後の差圧が上がるため発電機効率が上昇します。諸々踏まえても、一般的に8~15%程度となります。ここでは、E(%)として計算します。
今回は、以下の3パターンに分けて、計算方法を紹介しています。
ただし、発電機出口は熱水単層、発電機入口は飽和条件と仮定します。また、計算方法についても2種類用意しました。理解しやすい方で理解して頂ければ幸いです。
過熱蒸気は、計算方法が異なるため注意が必要です。
飽和蒸気のみの場合
図 バイナリー発電のシステム図(蒸気ver)
計算方法① 潜熱と顕熱を別に計算
飽和蒸気のみの場合は、「蒸気の潜熱」と「熱水になった後の顕熱」の足し算になります。
蒸気流量Q (kg/s)、入口温度T1(℃)、出口温度T2(℃)、温度T1のときの蒸気潜熱h(kJ/kg)とすると、以下の計算式です。熱水量も蒸気量と同じためQ(kg/s)と置けます。
単位計算とすると、以下のようになります。
\[ kw = \{\frac{kJ}{kg} + \frac{kJ}{kg·℃} \times ℃ \}\times \frac{kg}{s} \times 発電効率%\]また、熱水の比熱は厳密には温度や圧力条件によって変化しますが、ここでは簡易的に4.2(kJ/kg·℃)で一定としています。
計算方法② 比エンタルピーを用いた計算
比エンタルピーを用いた場合、入口の飽和蒸気の比エンタルピーをh(kJ/kg)、出口の熱水の比エンタルピーをh'(kJ/kg)とした、こちらの式です。
二相流の場合
図 バイナリー発電のシステム図(二相流ver)
二相流は、『蒸気と熱水が混じった流体』です。蒸気と熱水のエネルギーをそれぞれ計算することになります。厳密には、蒸発器と予熱器の出口温度は違いますが、二相流熱交換器などもあることから出口温度は同一であるとします。
計算方法① 蒸気潜熱と熱水顕熱を別に計算
蒸気流量Q1(kg/s)、熱水流量Q2(kg/s)、入口温度T1(℃)、出口温度T2(℃)、温度T1のときの蒸気潜熱h(kJ/kg)とすると、以下の式になります。
単位計算とすると
\[ kw = [\frac{kJ}{kg} \times \frac{kg}{s} + \{\frac{kJ}{kg·℃} \times ℃ \times \frac{kg}{s} \}] \times 発電効率%\]先ほどと同様に熱水の比熱は、簡易的に4.2(kJ/kg·℃)で一定としています。
計算方法② 比エンタルピーを用いた計算
別の計算方法として、乾き度と比エンタルピーを用いて簡単に計算する方法もあります。まずは、乾き度と比エンタルピーを求めます。
乾き度は、流量全体のうちの蒸気量です。式は以下の通りです。
飽和蒸気の比エンタルピーをhG、飽和熱水の比エンタルピーをhLとしたとき、二相流の比エンタルピーhは以下のように計算します。
以上の結果より、出口の熱水の比エンタルピーをh'(kJ/kg)としたとき、以下のように発電量を計算します。
二相流の比エンタルピーについては、私が作成した以下のサイトで飽和圧力と乾き度から自動計算することも可能ですので、ご利用ください。
熱水のみの場合
図 バイナリー発電のシステム図(熱水ver)
熱水の場合は、熱水流量Q (kg/s)、入口温度T1(℃)、出口温度T2(℃)としたとき、以下の計算式になります。
先ほどと同様に熱水の比熱は、簡易的に4.2(kJ/kg·℃)で一定としています。
計算例
例)総流量 10t/h、乾き度 0.3、坑口圧力 0.5MPaGの地熱流体が噴出しているとします。このとき、想定される発電出力はいくつになるでしょうか?また、このとき発電効率Eは12%、出口の熱水温度T2は90℃とします。
計算方法①の場合
まず、蒸気流量Q1と熱水流量Q2をそれぞれ求めます。
次に蒸気表より潜熱h(kJ/kg)、飽和温度T(℃)について調べます。
以上より、発電量は以下のようになります。
計算方法②の場合
まず、二相流の比エンタルピーを導出します。
飽和熱水の比エンタルピーは蒸気表より以下します。
以上より、発電量を算出すると
熱水の比エンタルピーを飽和蒸気表を使ったこと、所々で数字を丸めたことでで、①の計算と若干数字がずれていますが、おおよそ同じ値となりました。
自動計算サイト
自動計算サイトを作成しました。ご活用ください。
ただし、出力を保証するものではございませんので、ご利用の際には十分お気を付けください。
https://www.isenthalpiccalc.com/geo/binary